フードトラックを食文化に、帯広豚丼を日々の食事に。
突然ですが、みなさんにとってフードトラック(キッチンカー)はどのくらい身近な存在でしょうか? ここ数年は特にその台数は増加傾向にあり、都内のオフィス街だけでなく、最近では新型コロナの影響によるテレワーク需要に対応すべく、大型マンションや住宅地への出店も目立ちます。「毎日日替わりでフードトラックのランチを楽しんでいる」という方もいらっしゃるでしょう。フードトラックは、間違いなく以前よりも身近な存在になりました。
しかし、まだ日本の食文化として定着したと言えるほどではないと感じます。その証拠に、フードトラックで営業していると「こんなところにキッチンカーがある!」という声や「珍しいから買ってみた」という方も多くいらっしゃります。もちろん、足を止めてくださることはとてもありがたいことなのですが、逆に言えば、「フードトラックだから足を止めた」こと自体、まだまだ「馴染んでいない」証拠だと思うのです。
質問ついでにもう一つ……。「豚丼」はどのくらい身近な存在ですか? 吉野家や松屋といった丼系ファーストフード店でも広く提供されていますし、スーパーで買ってきた豚肉を炒めて白飯にのせれば豚丼にはなるので、「日常的によく食べるよ!」という方もいらっしゃるかもしれません。
それでは、「帯広豚丼」はどうでしょうか? 私が知る限り、日本中、いや、世界中のありとあらゆる食が集まる東京都内でさえ、帯広豚丼を提供している店は数軒しかありません。範囲を首都圏や関東に広げたとしても、その数が大きく増えることはないでしょう。ましてや、帯広にゆかりのある方でもない限り、夕食の食卓に出てくるというご家庭はないと思います。
まだまだ珍しい存在である「フードトラック」と「帯広豚丼」。
Food Truck Nico’s(以下、当店)では、この2つを組み合わせることで、それぞれがみなさんにとってより身近な存在になることを願っています。
できるだけ決まった曜日に、できるだけいつでも。
フードトラックの一番の利点は、言うまでもなく「移動できること」です。もし私が固定店舗で「帯広豚丼」を提供しているとした場合、お客さんに来てもらうためには、次のようなハードルを越える(お客様に越えていただく)必要があります。
- 「帯広豚丼を食べよう」と思う
- 一人でお店に行くのは寂しいので、同行者を見つける
- 「どうせ外食するなら豚丼よりお寿司がいい」という同行者を説得する
- 家の近所にお店はないので、わざわざ電車に乗って向かう
いかがでしょうか? 10人の「特に帯広豚丼に興味がない人たち」がいたとして、実際に何人がわざわざお店に足を運ぶでしょうか。おそらく1人いれば良いほうだと思います。
フードトラックであれば、先ほどのハードルはもっと簡単に解決できます。仮に、普段買い物をするスーパーの前や会社帰りに通る商店街に、帯広豚丼のフードトラックが出店したらどうでしょう。
- 「帯広豚丼を食べよう」と思うきっかけ→目の前にフードトラックがあります。
- 同行者はすでに隣にいるかもしれませんし、いない場合もご自宅の奥様のために買って帰ることができます。と言うよりも、フードトラックで豚丼を買うのに同行者が必要というのは寂しがり屋が過ぎます。
- 「どうせ買ってきてくれるなら豚丼よりお寿司がよかった」と奥様が言ったとしても、もう目の前には豚丼があるので手遅れです。
- 1.ですでに解決しているので忘れましょう。
お客様にわざわざ足を運んでいただかなくても、こちらからきっかけを届けに行く。それができるのがフードトラックの良いところだと思います。
しかし、もちろん固定店舗にあって、フードトラックにはない利点もあります。それは、「いつでもそこにある」ということ。フードトラックの場合、「買おうと思っていったのにいなかった」ということが起こりえます。「移動できる」という利点が、仇になることもあるのです。
だからこそ、私が気を付けていることがあります。
それは、「できるだけ決まった曜日に行く」ということ。
「日曜の夜には観たいドラマがある」
「水曜の朝は定例会議があるので、いつもより早く会社に行かなくてはならない」
人によって生活のリズムは異なりますが、誰でも一つや二つ、曜日と結び付けて習慣化していることがあるはずです。いつも決まった曜日にそこにいることで、「いつでもそこにある」固定店舗と同じように利用していただくことができると考えます。
もっと身近に、もっと手軽に
お客様にご来店いただいたとしても、それで当店の目的は達成ではありません。当店が目指す「身近に感じてもらう」ためには、さらに重要なハードルが3つあります。
- おいしいこと
- 安いこと
- 早いこと
誤解を恐れずに言うと、当店が求めるものは「値段のわりにおいしい豚丼」です。「お値段以上」です。ニトリと一緒です。
最高の食材を使い、手間暇を惜しまなければ、もっとおいしい豚丼を提供できます。しかし、そのためには一杯1500円程度の代金を頂戴し、お客様一人あたり20分ほどお待ちいただくことになるかもしれません。それでは、身近に感じていただくことはできません。
帯広豚丼が生まれたきっかけは「豚肉をもっと身近な食材に」という思いでした(「帯広豚丼について」参照)。当店は、その思いを大切にしたいと考えます。
「ふとした瞬間に食べたくなる」
「いつもの食事の一つとして手軽に買える」
「会社のお昼休みや保育園のお迎えの前など、限られた時間ですばやく買える」
お客様の日常のひとつとなれるような存在を目指して、これからも頑張っていきたいと思います。